多発性硬化症(MS)の原因と症状から予後を把握する

多発性硬化症の神経症状

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多発性硬化症とは?

多発性硬化症(MS:multiplesclerosis)は、脳および脊髄の支持組織である神経膠細胞(白質)に脱髄斑が散在性に発生し、神経伝達が中断されてしまう中枢神経系の炎症性の脱髄性疾患である。再発寛解を繰り返しながら進行していく。
(※ 脱髄とは何らかの原因で髄鞘が破壊されることを指す。)

日本人の患者数は文献により多少異なりますが、約15,000人ほど。アメリカには約30~40万人の患者がいるといわれており、多発性硬化症はアメリカやヨーロッパに多い疾患です。

なぜ再発と寛解を繰り返すのか?

症状が安定してきたと思ったら、再び悪化してしまう疾患です。その理由は、脱髄と髄鞘再形成の時期にありました。例えば脱髄の時期になると再発し、そして脱髄の時期が落ち着いて、髄鞘再形成の時期になると寛解するといった感じです。

この脱髄と髄鞘再形成を繰り返し、少しずつ症状は悪化していきます。

脱髄の影響

脱髄が起きると、軸索を取り巻く髄鞘が破壊され、中の軸索は保たれますが、跳躍伝導が障害されてしまいます。それは体内の神経伝達速度が著しく低下したり、遮断されてしまうことを意味し、様々な神経症状を引き起こします。

基本的に人間は脳からの電気信号によって、手や足を動かしたり、記憶や感情などに作用するため、脱髄によって電気信号のやり取りが上手くいかなくなると異変が生じてしまうわけです。

多発性硬化症の概要

多発性硬化症を勉強中の研修医

好発年齢や男女比など

好発年齢は15歳~50歳で、特に30歳前後の女性に多いといわれています。<男女比1:2~3>

発症には地域差や人種差があり、高緯度地域に多く、低緯度地域は少ない。また白人に多く、黒人や黄色人種には少ないといったデータが出ています。

日本での有病率は、人口10万人に対して、約10人前後であり、アメリカに比べるとわずか10分の1の割合です。そのことから世界的にみた場合、多発性硬化症は日本人にとっては比較的に珍しい疾患のひとつですが、近年は発症する方が増加傾向にあるそうです。

病態生理と原因

発症は急激な視力低下で始まることが多く、約1~2週間で寛解して再発を繰り返します。次第に視力が回復しなくなり、視力低下だけではなく、脱力や痺れなどの神経症状があらわ、さらに症状が進行していくと運動機能が低下して自立歩行が難しくなり、車椅子生活を余儀なくされてしまいます。

多発性硬化症の原因は未だ解明されておらず、いくつかの仮説に基づいて研究が進められています。特に有力な仮説は、多発性硬化症は自己免疫疾患であり、ウィルス感染などが引き金となって中枢神経系の髄鞘やオリゴデンドログリアに対する自己抗体が免疫反応を起こし、その排除作用によって髄鞘を自己破壊してしまうというもの。その他にも遺伝的要因があります。

症状

大脳・小脳・脳幹・脳神経(特に視神経)・脊髄が脱髄により障害されるため、さまざまな症状を引き起こす。下記に詳細を記述。
※ 病巣が白質のため、灰白質の障害で起こりやすい大脳皮質症状(失語・失行・失認・てんかん発作など)はみられにくい。

大脳

精神症状(うつ・多幸など)がみられる。

特に抑うつは一般的なものだが、見落とされるケースも多々ある。

小脳

歩行障害・測定障害、眼振、構音障害、企図振戦などがみられる。

脳幹

核間性眼筋麻痺(以下、MLF症候群)、三叉神経痛、偽性球麻痺などがみられる。

MLF症候群では、病側の内転障害と健側の外転時の眼振を生じる。外転神経・動眼神経の両神経核間をつなぐ線維の障害であるため、輻輳での内転は可能。

視神経

初発症状に最も多い球後視神経炎がみられる。視力低下のほかに、中心暗点などの視野欠損、眼痛、眼底検査での乳頭浮腫、視神経萎縮があらわれる。

脊髄

脱力や筋力低下、腱反射↑・バビンスキー反射(+)などの錐体路徴候、痺れのほかに、脊髄横断症状、排尿障害、激痛を伴った上肢や下肢の強直性痙攣の有痛性痙攣がみられる。

頸髄

頸部の前屈で背中から下方(下肢を含む)に電撃的な痛みが放散するLhermitte(レルミット)徴候がみられる。(頸髄後索の脱髄病変に特徴的)

その他

感覚刺激や運動で強い痒みがあらわれる発作性のかゆみ、また体幹に生じる帯状に締め付けられる異常感覚がみられる。さらに入浴・温熱刺激・運動などで体温が上昇すると症状が一過性に悪化するUhthoff(ウートフ)徴候がみられる。

禁忌

過労やストレス、感染などが発症や再発の誘引になることがあるため、温熱刺激・過負荷・疲労・ストレスなど症状を悪化させる恐れがある温熱療法・筋力増強運動は禁忌に該当する。

また暖かい室温、炎天下での外出、負荷の大きい運動、熱いお風呂などはUhthoff(ウートフ)徴候を引き起こす恐れがあるため避けましょう。
※ 運動を行う際の室温は25℃以下が望ましいといわれています。

診断基準

下記に多発性硬化症(以下、MS)の国際的な診断基準であるMcDonaldの診断基準を記載する。

MSの診断の大原則は,中枢神経における炎症性脱髄病変の時間的多発性・空間的多発性の証明であることを頭に入れておくこと。

臨床像 診断に必要な追加事項
2回以上の増悪と2個以上の臨床的他覚的病巣(1回の増悪でも、病歴で増悪を示唆するものがあればよい) なし
(MSと診断するためには、他の疾患を完全に否定し、すべての所見がMSに矛盾しないものでなければならない)
2回以上の増悪と、1個の臨床的他覚的病巣 MRIによる「空間的多発性」の証明 or 他の病巣に由来する臨床的増悪
1回の増悪と、2個以上の臨床的他覚的病巣 MRIによる「時間的多発性」の証明 or 2回目の臨床的増悪
1回の増悪と、1個の臨床的他覚的病巣(CIS) MRIによる「空間的多発性」の証明 or 他の病巣に由来する臨床的増悪およびMRIによる「時間的多発性」の証明 or 2回目の臨床的増悪
MSを示唆する進行性の増悪
(一次性進行型)
1年間の進行性の増悪。そして以下のうちの2つ
・特徴的な領域(脳室周囲,皮質直下,テント下)の少なくとも1領域に1つ以上のT2病変(造影効果の有無は問わない)
・脊髄に2つ以上のT2病変(造影効果の有無は問わない)
・髄液所見陽性

~表中に記載されていた空間的多発性の証明時間的多発性の証明の内容を以下に記載~

空間的多発性の証明

下記のいずれかを満たせば証明される。
①.異なる病巣による2つの臨床症状
②.MRIにおいて,特徴的な領域(脳室周囲,皮質直下,テント下,脊髄)の2領域以上に1個以上の無症候性のT2病変

時間的多発性の証明

下記のいずれかを満たせば証明される.
①.1か月以上の間隔をおいた2つの臨床症状
②.ある時点のMRIと比較して,再検したMRIで新たなT2病変の確認
③.ある時点のMRIで2つ以上のT2病変があり,1個以上の造影病変と1個以上の非造影病変

経過パターン(予後)

下記に多発性硬化症の特徴的な経過パターンを載せておきますが、再発や寛解の時期や程度は人それぞれで、一概には予後を断言することは出来ません。また検査等を行っても、いつ再発するのかを予測することは難しいため、これらのことに注意して参考程度にして頂けたらと思います。

多発性硬化症の経過パターン(参考:病院なび

■再発寛解型MS
最も多くみられる経過パターンで、再発と寛解を交互に繰り返します。寛解期には、ほぼ正常な状態まで回復する人がいる一方で、一部の症状が残っている人もおり、さまざまです。
■二次進行型MS
初期には再発と寛解が交互に繰り返しされますが、徐々に病気そのものが進行していきます。日本では少ないといわれています。
■一次進行型MS
再発・寛解といった時期がなく、継続的に症状が悪化していく経過パターンです。日本では少ないといわれています。
■良性型MS
再発をほとんど起こさず、発症から数年を経ても後遺症をほとんど残しません。

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