腰痛に関する疫学的データ
成人の約80%が生涯の内に経験するといわれている腰痛。この数値は5人に4人の方が腰痛を経験していることを指します。
基本的に1/3は大体1~5ヶ月以内、残りの1/3は6ヶ月以上も慢性的に腰痛が継続しているとされており、いつ自分自身が腰痛を抱えながら生活をおくることになってもおかしくありません。
性別による腰痛の発生率
厚生労働白書によると、腰痛の発生率には男女差があります。
女性は加齢と共に増加する傾向にあり、これは女性ホルモン(エストロゲン)の分泌が低下していくことで骨密度が減少していくため、骨粗鬆症と関連があるのではないかと考えられます。
男性の多くは20代頃から腰痛がみられはじめ、40~50代をピークに減少していきます。
男性・女性ともに全ての年代において国民愁訴の上位3位を占めており、データから腰痛は人間と関連の深い症状であることが理解できます。
腰痛の危険因子
不活動性
不活動性は筋骨格系に対して、筋力の低下や可動域の減少などの悪影響を及ぼします。例えば高齢者が一週間ほど寝たきりになってしまうと、筋力が約20%も低下するというデータがあります。
反対に抵抗運動や有酸素運動などの身体を動かす行為は関節軟骨・靭帯・腱などに対して有益な効果をもたらします。
上記のことから、身体運動の低下は腰痛発症の重要な危険因子であると考えられる。
喫煙
喫煙者は禁煙者に比べ、腰痛の症状が深刻であることが多い。その理由は喫煙によって軟骨終板を介しての椎間板への影響供給が阻害されるためである。
また酸素運搬の機能低下により身体運動の低下がみられるため、腰痛の危険因子として喫煙が挙げられる。
労働環境
昔から重機や削岩機などに従事する関係者が、作業時の振動が原因となって腰痛が発生することがある。これは振動により、コラーゲン組織の疲労性破綻を促進しているためである。
最近では看護師や介護士などの腰痛が増えているが、これは患者の起き上がりや立ち上がりを介助する際に、体幹回旋と前屈動作の複合運動が椎体間関節(特に椎間版)の過剰な負荷をもたらすためと考えられる。
心理的要因
近年は腰痛を解剖学的な異常として捉えるのではなく、「生物・心理・社会的疼痛症候群」による症状と位置づける考え方が定着しつつある。
例えば急性期の段階では、患者に予後が良好であることを伝えて、安心感を促した上で過剰な安静を薦めないことが推奨されている。
慢性期には心理的要因が腰痛の主な原因になることから、運動療法や集学的アプローチ、リエゾン療法がアプローチ方法として好ましい。
心理的問題と機能障害に着目した研究では、個人的・仕事的・家庭的に問題が少ない患者の職場復帰は非常に良好であるとのこと。
非特異的腰痛症のガイドライン
急性・亜急性疼痛 | 慢性疼痛 |
患者を安心させる | 物理療法は薦めない |
活動を維持するように助言する | 薬物療法・徒手療法は短期間に限る |
安静臥床(寝たきり)は薦めない | エクササイズを薦める |
認知行動療法、集学的治療が良い |