高次脳機能障害に対する就労支援の心得①

仕事中に一服

就労場面で生じる問題

高次脳機能障害の中でも多い注意障害遂行機能障害がある方の場合、医療機関の訓練場面と実際の職場では「出来ること」に想像以上の差が生じることが少なくない。

それは医療機関のように整った環境とは異なり、実際の職場では様々な刺激が入ったり、処理すべき情報量も多いことが考えられる。また要求されるスピードや正確性などの要求水準も高い。

パソコンのデータ入力を例に考えてみると、医療機関の訓練場面では静かで誰にも邪魔されずにデータ入力だけに集中できる環境だったとしても、実際の職場ではそのような環境を整えることは難しいだろう。

周囲の雑音、唐突な依頼、さらに作業途中で新しい指示または変更点など様々な刺激があり、その中で業務の優先順位を素早く判断し、できるだけ速く正確に遂行しなければならず、その過程の中で質問や報告等のコミュニケーションも求められることを考えると、いかに仕事に求められる要求水準が高いのかが分かる。

仕事の要求が注意障害遂行機能障害の方の能力を超えた場合、様々な問題が現れてくる。大まかに分類すると下記のような問題である。一般的な職場では、これらの問題は障害によるものだとは考えられずに「性格」や「やる気」の問題として捉えられてしまうことが多々みられる。

業務遂行上の問題

・仕事が遅い。
・間違えやミスが多い。
・事故や怪我が多い。
・忘れやすい。
・段取り(計画)ができない。

職業態度の問題

・疲れの訴えが多い。
・眠気が強い。
・集中できない。
・やる気がみられない。

対人関係の問題

・自分の非を認めない。
・不適切な言い訳がみられる。

周囲と本人が障害を理解することの難しさ

高次脳機能障害は”みえない障害”とも呼ばれている。

傍から見ると何も問題なさそうなのですが、例えば仕事や作業を行うと「できそうに見えるのにできない」「本人はできると思っているが実際はできない」といった問題が生じることが多い。これは要求水準と能力のギャップ本人の自己認識と能力のギャップによるものである。

最も効果的なのはジョブコーチなどの就労支援の専門職員が、本人と職場の間に入って雇用主や上司などと業務量を調整するのが効果的である。ただし、調整役には障害に対する専門的な知識と職場側のニーズを汲み取れる人材が求められる。

ここで注意して頂きたいのは業務量の調整が機能するためには、周囲に障害者であることを伝えなければならない。そのことが本人の苦痛になる場合は注意が必要である。障害受容が出来ているのかどうかなど、予め把握しておくと良いだろう。